新・子どもの運動意欲や知識を高める習慣づけ|遠山健太
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最終更新日2024.10.18
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子どもの外遊びが減り、体力や運動能力の低下が指摘されています。しかし、本当の問題はそこではないと指摘する声も。スポーツトレーナーとして日本代表チームなどに帯同した経験のある遠山健太さんに、子どもの運動意欲を高める方法とポイントについてお聞きしました。
東海大学男子バスケットボール部、国立スポーツ科学センタートレーニング体育館(非常勤)のフィジカルコーチを務め、2004年からは全日本スキー連盟フリースタイルスキーのトップチーム、2010年からはジュニアチームのスポーツトレーナーとして代表選手に帯同。2018年に後進に道を譲り、現在は大学院にて子どもの体力について研究を行い、都内近郊でトレーナー派遣事業や子どもの運動教室を展開。著書に『るるぶKids こどもの運動能力がぐんぐん伸びる公園』(JTBパブリッシング)など多数。
一般社団法人 日本フットウェア技術協会、一般社団法人健康ニッポンなどの理事を兼任。
子どもの運動能力・体力低下は本当?
子どもの運動能力を語る時、必ずと言っていいほど指摘されるのが「体力の低下」「運動能力の低下」です。確かに、スポーツ庁が実施する全国体力・運動能力、 運動習慣等調査によると、体力合計点は低下を続けています。実際に子どもたちと接している指導者たちからも同様の声が挙がっています。しかし、各実技テストの結果を見ると、種目によっては横ばいや伸びているものもあるのです。それらの結果について「子どもの体力の低下というよりは、体育の授業が苦手な子が増えていると感じています」と語るのは、フリースタイルスキーの日本代表選手を指導した経験を持つ、遠山健太さんです。
「最近感じているのは、自分の身体の動きや運動そのものに興味・関心がない子が増えていること。体力低下そのものよりも深刻な事態です。興味がないため運動習慣が定着しておらず、結果として活動量も低下し、体力測定の数値が落ちてしまう。体力測定の練習会を事前に行う自治体や学校では数値は高まるものの、本来重視しなくてはいけない運動への興味・関心の調査項目が低くなる矛盾が生じているところもあります。
運動が好きではない理由のひとつに、学校の体育やクラブチームなどのスポーツ教育があるのではと私は考えています。学年で区切ると月齢や発育の違いが原因なのに比較されることもあり、皆の前で身体を動かすことが楽しくなくなってしまう子どももいるでしょう。また、足が遅い子や、球技や跳び箱などを使った運動が苦手な子でも、外遊びは大好きで動くことが好きな子はたくさんいます。苦手な部分を見た保護者が、運動ができるようになってほしいと子どもが興味を持っていないスポーツのチームに入れてしまうと、スポーツだけではなく運動も好きではなくなってしまいます」
大切なのは、発育の関係なのか、運動が苦手なのか、そのスポーツが苦手なのかを見極めること。思い込みをなくして、子どもが身体を動かしている姿を見てみると、子どもの新たな面に気付けるかもしれません。
保護者の意識を変えれば、子どもの運動への興味はさらに広がる
スポーツは同年代の子どもたちが集うため、協調性などのいわゆる非認知能力が育つと期待されています。また、技術的にもうまくなったほうがより楽しめるのではと、親は技術面の習得などを重視しがちですが、そこには注意が必要だと遠山さんは語ります。
「なぜ子どもに運動をさせたいのか。将来スポーツ選手になってほしいという方もいらっしゃるとは思いますが、多くの方は外で元気に遊んで健康的に育ってほしいからではないでしょうか。技術面やそのほかの効果ばかりを重視せずに、子どもの得意なところを見ることが大切です。
また、文科省が行った過去の調査では、運動やスポーツについて家族で『観る』『話す』『する』の頻度が高い場合、子どもの運動時間、体力、意識ともに高い傾向があることがわかっています。親が運動やスポーツを見ない、しないからといって身構える必要はありません。近隣の体育館や運動場では様々なスポーツが行われていますし、動画サービスなどで色々なスポーツを見るのも良いでしょう。また、サイクリングや登山、散歩や公園遊びを一緒にするだけでも構いません。親自身が運動のハードルを下げて、子どもと一緒に楽しんでいただくと、子どもは運動に興味が持てるようになるのではないでしょうか」
その伸び悩みはスランプではない? 思春期不器用とは
多くの子どもが幼少期からスポーツ少年団やクラブなどに入る背景には、公園などでボールや身体を使った遊びがしにくい環境のほか、幼少期から始めることで早いうちから才能を伸ばしていきたいという親や本人の思いもあるようです。しかし、子どもの身体は日々成長し、特に成長期においては大きく変化します。その頃に多いのが、身長が1年の間で一気に高くなる「成長スパート期」に一時的に身体が思うように動かなくなり、スポーツの成績にまで影響を及ぼす現象です。身体が急に成長したことでスポーツにより一層力を入れたい時期なのに、動きづらく、また競技力も低下する。この現象には「思春期不器用」という名前が付いています。
「科学的な解明はまだされていないのですが、思春期不器用は急激な身体の成長に脳の指令が追い付かなくなったり、骨の成長に腱と筋肉が引っ張られたりすることからうまく動かすことができなくなることが一因と言われています。私が見てきたジュニアチームでも、この時期に身体の柔軟性が乏しくなっている選手が多かったです。
この現象および名称は日本ではまだ浸透しているとは言えず、スポーツの指導者でも知らない人もいます。その結果、選手や指導者が原因は単純にスランプだと捉えてしまうと、さらにハードな練習を重ねてしまい、うまくいかなくて自信を無くし、最悪なケースだと無理をしてケガをする可能性があります。もし身長が年間8~10cmほど伸びるような時期であれば成長スパート期に突入したと理解し、気を付けましょう。普段より動的ストレッチなどを実施し、柔軟性を高める運動を多めにするように心がけましょう」
特に、競技パフォーマンスが下がると、レギュラーから外されるなど選手本人もとてもショックを受けます。保護者や指導者は「今はそういう時期だから心配する必要はない」と伝えて心理面のケアをしていく必要があるとのことです。
では、この時期は何もできないのかというと、思春期不器用の時期に適したトレーニングがあると教えていただきました。
「成長期は骨の成長だけではなく、心臓や肺が大きくなることから心肺機能を狙ったトレーニングが効果的と言えます。この時期に持久力を伸ばすトレーニングをすると、どの競技においても有効です。最適なタイミングで、できることをする。選手のメンタルケアにも繋がります」
足裏をやわらかくして足指を鍛え、ケガをしにくい身体に
本格的に運動をしているならもちろんのこと、普段あまり運動していない人こそ、運動前の準備はきちんとしたいものです。運動をするうえで大事な足首のケアに繋がるストレッチをお聞きしました。
足の指でビー玉掴み
最初に、ハンディガンで足の裏全体をゆるめます。レベル1の強さで、方向などは気にせずに上下左右に動かしたり、くるくると回したりして足裏に刺激を与えます。
丸めたティッシュやウレタンなど柔らかい素材のものを足の指に挟み、指の間を広げます。広げた状態で指を使うと効果的です。
紙コップなどの入れ物と、親指大ほどのビー玉を用意し、床に配置します。個数やビー玉それぞれの距離感、コップの位置などは自由です。やりやすい形で始めましょう。
立った状態でビー玉を掴み、コップの中に入れます。これを左右の足で行います。
1人でやるよりも、親子などで個数やかかった時間を競争したり、おはじきや小さめなビー玉を混ぜて行うと、盛り上がります。
ただ動く・走るだけではつまらない。楽しく運動を
思春期不器用の時期は、持久力を高める運動が効果的と語る遠山さん。持久力向上にはランニングが手軽で一般的ですが「ただ走るだけだと単調な動きなのでつまらないですよね。子どもも飽きてしまいます」と、楽しんで運動することが重要だと言います。それは、選手を目指す子どもだけではなく、スポーツや運動が好きではない子どもにこそ「楽しむこと」が必要とのことです。
「楽しむにはゲーム性を持たせると簡単です。例えば、ただランニングをするのではなく、住宅街でよく見かける何かを写真などに収めて点数を競いあう。私は息子と表札に出ている名前の中から珍しい名前を探すゲームをしていましたが、道路標識など街角にあるものでも良いでしょう。苗字ならランキングサイトがあるので、珍しい苗字ほど点数を高くして、戦略的なゲーム性も高めます。走ったり止まったりするのでインターバルトレーニングの要素もあり、心肺機能も鍛えられます。紹介したビー玉掴みもそうですが、楽しく運動することこそが、運動意欲を高め、身体を動かすことを習慣化させていきます」
インタビューを終えて
スポーツを始める子どもの年齢が下がっている一方で、運動好きの子どもが減っているのだとしたら、それは大人の促し方が間違っているのかもしれません。「ゴールデンエイジまでにスポーツをさせたいという保護者もいますが、この時期は単純に神経の量が増えているだけのことです。リハビリの分野がかなり進み、歩行が困難になっている高齢者であってもトレーニングによって筋肉と神経は繋がるようになり、歩きやすくなります。つまり運動は何歳から始めても効果があるのです」と語る遠山さん。まずは親子で楽しく身体を動かすところから始めてみると良さそうです。