まずは筋膜の癒着をリリース。デスクワークでかたまった身体のセルフケア
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最終更新日2024.12.09
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スマートフォンやパソコン作業などでこり固まった身体は、肩こりや頭痛などを引き起こします。身体の不調をケアしようと運動やストレッチを始める人は多いようですが、その痛みの原因が筋肉と神経の癒着だった場合は、注意が必要です。まずは癒着をリリースしてからストレッチや運動をすることが大切なのです。そこで、プロ・アマ問わず数々のアスリートやビジネスパーソンの身体のお悩みに向き合ってきた丸の内接骨院グループ総院長の高野良介さんに、身体のセルフケアについてお聞きしました。
接骨院や整形外科、内科などで経験を積み、専門学校講師や実業団でのスポーツトレーナーなどを経て、2005年「たかの接骨院」、2010年「丸の内接骨院」「ランナーズフォレスト」、2024年に脚専門ケア「Dr.レッグ整体院」を開設。プロ・アマのアスリートのサポートや、役者・歌手のボイスケアに関わるなど、幅広く活躍しています。
https://www.marunouchi-studioworkout.com
身体のこり、痛みを引き起こす、筋肉や筋膜の癒着
10代や20代といった若い世代でも、パソコンなどのデスクワークやスマートフォンの長時間使用が続くと身体がこり固まり、肩や首に痛みを感じます。30代、40代と年齢を重ねていくとその痛みがなかなか取れなくなり、日常的に肩や首が動きにくくなるなどのさらなる不調を引き起こしていきます。その原因のひとつに、筋肉の癒着があると語るのは、丸の内接骨院グループの総院長であり、これまでに延べ10万人以上の施術実績を持つ高野良介さんです。
「近年、超音波診断装置(エコー)の精度が劇的に向上し、画像もわかりやすくなりました。その結果、筋肉(筋膜)と神経の癒着も首などの痛みの原因のひとつだと指摘されるようになりました。この癒着があると、筋肉が動くときに神経が引っ張られ、痛みが生じるケースもあるのです。
癒着の原因として考えられるのが炎症です。炎症は、ケガなどの強い衝撃があった場合のみならず、デスクワークなどで姿勢が良くない状態が繰り返されることでも起こります。30代くらいまでは癒着を抑制するエンドスタチンという物質が分泌されているのですが、40代以降になるとそれが分泌されにくくなると言われています。また、女性ホルモン分泌の変化でも炎症が起こりやすくなり、痛みが生じるとされています。近年の研究では、これらと四十肩、五十肩などとの関連性も指摘されるようになりました。
癒着が部分的であれば、癒着した筋肉と神経の間に注射器で薬液を注入し、物理的にはがすハイドロリリースという処置があり、それを施す病院やクリニックも少しずつ増えてきています。しかし、日常的な動きから生まれた腰や肩、首から背中にかけての痛みは範囲が広く、そのすべてを医療的な処置で行うことは現実的ではありません。そのため、私たちのような接骨院などが適切な手技療法や正しい動き方をお伝えするなどして対応していくことが必要となります」
しかし、同じ動作を繰り返すということは生活習慣と密接に関係している動作になります。接骨院などでの施術だけではなく、日頃のケアが大切となるのです。
首・肩・腰の痛みを呼吸と姿勢の見直しで改善
身体の痛みは生活習慣から起こることが多いと指摘する高野さん。中でも、首や肩、腰、背中の痛みは動作そのものよりも、姿勢によるところが大きいと言います。さらにその姿勢に関係してくるのが、正しい呼吸法です。特にデスクワーク姿勢では腹式呼吸ではなく胸式呼吸になりがちです。
「当院に来られる方は症状が重い方も多いのですが、多くの方に姿勢が良くないといった共通点が見受けられます。猫背やストレートネック、顎が出てしまう姿勢は、歯の食いしばりも誘発します。そこで正しい姿勢を取ることが大切になるのですが、すでに身体に痛みが出ているような状態、つまり筋肉が癒着している状態では正しい姿勢を取るのは困難です。その場合は、まずは呼吸法を見直すことから始めてみると良いでしょう。なぜなら、姿勢保持の7割を担うとされている背骨の姿勢を保持する多裂筋は、呼吸と深い関係があるためです。
呼吸には腹式呼吸と胸式呼吸があります。腹式呼吸は、横隔膜を下げて肺の容量を増やして呼吸を行います。横隔膜は首から腰にかけて背骨を支えるようにある多裂筋と連動しているため、腹式呼吸を行えば多裂筋を動かし、無意識に姿勢を安定させることができます。この姿勢保持を、腹式呼吸を使わず行おうとすると、多裂筋以外の筋肉も非効率的に使ってしまい本来備わっているメカニズムに反した姿勢の保持となってしまうのです。日常的に正しい姿勢を保持していくためには腹式呼吸を行い、無意識下に姿勢を整えることが大切です。そして、デスクワーク等の作業時、睡眠時などは安静時呼吸である腹式呼吸のみでまかなうことが理想です。
一方で胸式呼吸は、首や肩の筋肉を使ってろっ骨を横や前後に広げて肺の容量を増やします。この方法だと、吸い込める空気の量は腹式呼吸に比べて4分の1程度。同じ量の空気を吸い込むためには、4倍の呼吸回数が必要となります。胸式呼吸ですと首や肩につながる筋肉も呼吸の度に動いてしまうので、当然疲労もたまります。特にデスクワークなどで下を向くと胸式呼吸になりやすいため、横隔膜を使う機会が減って横隔膜がかたくなっていき、ますます腹式呼吸がしにくくなるのです」
癒着をリリースして、巡りの良い身体に
高野さんは、姿勢の悪さが引き起こすのは腰痛や肩こり、頭痛だけではないと指摘します。
「姿勢が悪いと、首と肩に必要以上に負担がかかることで歯を食いしばるようになります。食いしばりが起こると顔の筋肉がかたくなったり、各所で癒着が起きて顔がむくんでしまったりすることもあります。その影響は喉にもおよび、声が出にくくなることもあります。喉が弱まれば当然ながら嚥下機能にも影響が出てきます。食いしばりの対策のためにも、腹式呼吸をしっかりと行って多裂筋を上手に動かすこと。そうすることで、重量のある頭を首や肩だけではなく、背骨全体で安定して支えることができるようになります。
まずは腹式呼吸で姿勢を正すこと。次に、筋肉の癒着をリリースして筋肉を正しい位置で動かせるようにしてから、ストレッチなどを行っていくことが大切です」
腹式呼吸で姿勢を正す簡単セルフケア
体幹の筋肉を意識し過ぎると他の筋肉も動いてしまうため、意識的に筋肉で姿勢を正すのではなく、腹式呼吸で整えるポイントを紹介します。
デスクワークの合間などに行うと、強張った身体と姿勢の悪さが一旦リセットされます。繰り返しリセットする習慣を身につけることで、根本的な改善を目指します。
1.骨盤を立てた状態で軽く足を開いてイスに座り、腰に手を置きます。
2.息を吐きながら背中を丸めて上半身を前に倒し、息を吐ききります。首のストレッチでもあるので、首の後ろを少し伸ばすようなイメージで行いましょう。
3.息を吸い込みながら上半身を起こします。このとき、肩甲骨を引き寄せるように肩と胸を開きながら身体を起こし、最後は顔を上に向けます。
振動で筋肉&筋膜をリリースし、身体をリセット
肩こりなどに効果的と言われる運動やストレッチは、筋肉と神経が癒着している状態で行うと痛みがさらに強くなってしまう場合もあります。そこで、筋肉から神経をリリースすることが先決です。リリースの方法としては刺激の強いマッサージもありますが、筋肉を圧迫するような刺激の強いマッサージは痛みを増加させる可能性があるため、自宅でケアをしていくなら“ゆする”、つまり振動がおすすめです。
1.頬の下、顎のライン際の咬筋にハンディガンを当て、一番小さい振動をやさしく与えます。
2.首筋にある胸鎖乳突筋にハンディガンを移動させ、やさしく上下に滑らせます。ここでも、筋肉に振動が伝わる程度にします。くるくる回しても大丈夫です。
3.顎のラインのあたりも軽く当てていくと表情筋が緩み、巡りも良くなります。
4.さらに巡りを良くしていきたい場合は、振動のレベルを1つ上げて、鎖骨の下も軽くケア。
5.手のひらを下に向けた状態で肩から腕へと降りていき、腕の筋肉を緩めていきます。手首を上下に動かしたときに連動して動く筋肉や、ハンディガンを当てていて気持ちの良い箇所を重点的に行います。
6.手のひらを上に向け、腕の内側もケア。外側同様に、手首を動かしながら連動して動く筋肉を中心にケアをします。反対側も同様に行います。
インタビューを終えて
腹式呼吸と正しい姿勢の関連性を説く高野さん。小さな不具合が積み重なったときに大きな痛みになるのでしょう。基本となる姿勢を正すためには、まずは呼吸を整える。無意識に行われている動作だからこそ、意識して正しい方法で行うことが大切です。